信州の南信に位置する諏訪湖↓。周囲15.9Km、面積12.9平方Kmにも及ぶ広大な湖。この地は、日本最古の神社のひとつ「諏訪大社」が創建されたところから歴史が始まる。信濃一の宮として太古から栄え、「お諏訪さま」として地元民に愛された土地である。諏訪大社は、上社(諏訪市の本宮・茅野市の前宮の二つ)と下社(下諏訪町の春宮・秋宮)で一社を成し、日本全国に一万もあると言われる諏訪神社の総本社だ。7年に一度行われる「式年大祭の御柱祭」は、あまりにも有名である。5丈5尺(約17m)の樅の木16本(重さ13トン)を、山から切り出し四宮の四隅に御柱として建てる神事。切り出した木に若衆が跨り、山から一気に滑り落とす「木落し」や、「川越し」は、この地の人々の勇壮さを物語っている。
 この諏訪湖そして諏訪大社周辺に、発展してきた都市群がある。岡谷市・諏訪市・茅野市・下諏訪町。それらの都市はいずれも人口5〜3万クラスと、似通った形態をしている。人口20万クラスの都市基盤をもちながら、長年ひとつとなることもなく、別々の都市として今日まで歩んできた。本来ならば、松本市・高岡市・長岡市といった地方中核都市レベルの素養も持ち合わせているのである。
 日本のスイスとも言われ、澄んだ空気と綺麗な水が、精密機器メーカーを多数生み出す地域である。特にセイコーエプソンの企業城下町的要素も持っている。 しかしながら、ひとつの都市にならなかった為に、全国的な中核都市ではなく、信州の地方都市として甘んじてきた点もある。ステイタスとなるようなシンボルチックシティを持っていないことは、この地域の知名度を高める障害となっているのです。
 かねてより、その必要性が唱えられながら実現しなかった大同合併。都市としての拡がりは、諏訪湖に沿って発展しており、まさに一都市である。今、2005年の合併特例法期限を目処に、改めて合併論議が白熱している。日本のレイクシティと言われる諏訪湖。ここに、長野県を代表する新しい全国区の都市が誕生できるかどうか、大変注目されるところである。
 今回は、この諏訪湖レイクシティの現状と将来性を探ってみたいと思います。
 長野県の主要都市と聞かれれば、まずは県都で34万都市の「長野市」とライバルで20万都市の「松本市」、そしてその後にくるのは人口10万都市の「上田市」、観光都市の「軽井沢町」ではないだろうか。しかし長野県を見渡すと、星のように輝く主要都市のほかに、ぼんやりと輝く地域がある。まるで多くの星が集まって構成されている星雲のように見える。それが諏訪湖周辺のレイクシティだ。
 この諏訪湖周辺地域は、核となるような中心都市を持たなかった為、これまで今ひとつ「目立たない」「存在感の無い」「全国区では無い」地域であった。
 しかし長年の課題だった、諏訪湖周辺一都市化へ向けての取り組みが急ピッチで進んでいる。
 現在、諏訪湖周辺都市では、6市町村(岡谷市・諏訪市・茅野市・下諏訪町・富士見町・原村)で、任意の合併協議会が持たれている。この任意合併協議会では、既に新市名候補として、地域に馴染み深い「諏訪市」にすることで決まっている。一見すると順調に、合併協議が進んでいるようにも見える。しかし、実際には、大同団結都市ができるかどうか微妙な要素も多分としてあるようだ。
 この6市町村が合併すると、人口は一気に21万1千人となる。松本市の人口20万8千人を抜き、長野県の新第2都市が誕生することとなる。
 潜在能力が高い都市が見込めるのだが、実現への障害となっているのが、地域間感情である。
 合併への障害"地域感情"。この問題は、諏訪地域だけの問題ではなく、市町村合併が上手く進まない地域全般の問題である。原因はいろんな事が考えられる。風土や習慣の違い・歴史背景・都市間の経済競争・変化を求めない保守論・領土争いなどなど。
 長野県全般に言えることだが、歴史的に見て、領土争いの多い地域と言える。戦国時代に甲斐の武田信玄と越後(上越市)の上杉謙信が、信州の領土を争って激しい戦をしたのは有名であるが、信州ではその後も、豪族などの領土争いは続いていた。その名残ともいえるが、長野県では市町村境界が、いまだにはっきりしない地域が多い。諏訪湖周辺都市でも、同様である。↑近代になっても、長野県では流血抗争になるほどの領土争いが続いていた。それだけ自分達の生活エリアを大事にしてきたと言えるだろう。
 そのため、諏訪湖周辺都市の合併も一筋縄ではいかないのである。よそ者が見れば、あきらかにこのエリアは合併した方が、経済性も上がり、都市基盤整備も進んで発展するだろうと思っても、地元民全員はそうは思わないのです。諏訪地域でも、岡谷・諏訪・茅野・富士見の首長が合併推進、原・下諏訪の首長は慎重論である。
都市名 人口 面積
岡谷市 55,875 85.14
諏訪市 53,562 109.06
茅野市 55,754 266.40
下諏訪町 23,558 66.90
富士見町 15,376 144.65
原村 7,315 43.25
<合計> 211,629 715.40
 合併が上手くいかない地域はどれも、自分達が住んでいるエリアの"いまの利益"を優先させる考えである。勿論、それは間違った考えではない。そのそれぞれの地域は、住んでいる人達の物であるからだ。経済的な面・国家の思惑などで、合併を強制しようとするのは間違いなのです。
 合併問題で、重要だといえるのは、「なんの為の合併なのか?それは前向き(将来性・戦略性のある)な合併なのか?」である。そういった要素を含んでいない合併は、行う必要はないであろう。理想論的な将来ビジョンではなく、具体論的なビジョンを持たない合併都市では、これまでと何も変わらない都市であり、結局は衰退するのです。
 諏訪湖周辺の大同団結合併。これは膠着状態の都市生活基盤整備や経済活動を劇的に改善させる可能性を秘めている。合併による将来性や戦略性は非常に高いと言えるだろう。
 6市町村の内、富士見町・下諏訪町は12月に合併に関する住民投票を行う。諏訪市・原村でも住民アンケートを行う予定であり、いよいよ(新)諏訪市へ向けた取り組みは大詰めを迎えようとしている。もし実現すれば、長野県の中でも重要な都市と位置付けられ、全国主要都市の仲間入りを果たす新都市誕生となるのです。
 諏訪レイクシティは、中央に諏訪湖、周辺は山に挟まれた盆地である。わずかな平地部分に都市が発展してきた。都市基盤は、温泉地・住宅地・工場地から形成される。
 都市基盤となる土地がとにかく少ない。→更に古くから発展した都市である為、道路・鉄道の発展を妨げられてきた。幹線道路の国道20号線も、ほとんどが2車線である。↓
 また、道路も入り組んでおり、平日・休日ともに、下諏訪町・諏訪市周辺では、激しい渋滞となる。特に中央自動車道が、発展した街とは対岸に建設された為、インターチェンジも非常に遠く、バイバス道路として活用できないなどの問題もあるようだ。
 一刻も早く、国道20号線のバイバス道路建設が待たれるところだが、その実現もとても遅い。茅野ー諏訪IC間で一部供用を開始しているが、それも、まだ2車線である。さらに現在は岡谷ICから下諏訪間の工事が進められてはいるが、完成時期が見えていないようだ。そして、渋滞が激しい下諏訪ー諏訪IC間であるが、こちらは建設の目処すら起っていない。
 人口20万クラスの地方中核都市であれば、どんな形であれ、主要国道のバイバス道路は開通しているものです。主要都市を持たずに来た諏訪湖周辺の課題がここにあると言える。
 諏訪地域の合併が実現すれば、間違いなくバイバス道路の建設は飛躍的に進むだろう。これは、合併推進の助成政策として、合併都市間のアクセス道路(合併支援道路)を優先的に整備を図る処置が採られるからである。
 例えば、石川県で誕生する「かほく市」でも、合併する宇ノ気町と高松町間の合併支援道路として、国道159号線バイバス「河北縦断道路」(地域高規格道路)の建設が始まっている。
 しかし、この地域の道路整備の遅れは、国道だけではない。生活道路の整備も遅れている。特に道路が市町村境界で終わっていたり、入り組んだ道路が多いなど、住民活動の障害となっている。つまり、広域で住民が行動・交流できないのである。この事はそのまま、経済活動の停滞に繋がる問題なのです。
 例えば、諏訪湖周辺では、郊外型ショッピングセンターが少なく規模の小さいものが多い。更にロードサイド店といわれるお店も少数だ。これは道路整備が進んでいないことによるもので、広域の経済活動が行われていないことの現われと言えるだろう。
 もし合併が実現すれば、目に見える形で幹線道路の整備が進み、市町村で分断された道路問題も、一気に解決できる効果が見込める。2005年に合併が実現すれば、2015年には諏訪湖周辺は大きく変わっているであろう。
 道路の他に街の発展を阻害してる要素が、鉄道である。中央東線は、東京を松本を結ぶ幹線鉄道ではあるが、高速運行ができない。特に諏訪湖周辺は、いまだに単線区間であり、複線化工事も、整備途中で止まっているところが多い←。また踏み切りやカーブが多く、高架部分も無いため、鉄路を挟んだ両側への交通アクセスが、非常に悪いのが現状だ。街の発展も、鉄路を挟んで対照的なところも多い。意外なことに、鉄路から湖側が都市化が遅れている。
 関係機関では、中央東線超高速化実現期成同盟会を設立して、松本新宿間を2時間以内で結ぶスーパー特急の実現を目指しているが、諏訪地域の鉄道整備の遅れは大きなネックとなっている。関係市町村で構成された"諏訪広域連合"では、中央東線の複線化・立体高架化(具体案は無い)・駅舎及び駅周辺整備・新駅建設を検討しているが、具体的な計画立案までには至っていないのが実情だ。こちらも、諏訪広域合併が実現すれば、事情は変わるのではないだろうか。
 20万規模になれば予算規模も大きくなり、都市としての重要度も増す事から、鉄道の連続立体高架化も、夢ではなくなってくる。
 諏訪レイクシティの問題として、中心地がないことも挙げられるだろう。商業基盤を持った都市は、岡谷→・諏訪→・茅野↓である。
 しかし、どの都市も秀でた規模ではない。各都市の駅周辺もさほど発展していないのである。商業施設も空き店舗が多く、人通りも少ない
 強いて言えば、諏訪市(上諏訪駅周辺)が、若干活気があるかなぁという印象である。諏訪湖きっての温泉街や地理的優位(6市町村で中央に位置する)もあるだろうが、上諏訪駅周辺には、この地域唯一の商店街や百貨店を有している点も挙げられよう。
 駅前にある「諏訪丸光百貨店」。↑店内はちょっと昭和っぽい懐かしい雰囲気でもありながら、売り場は地下から5階まであり、しっかり営業を行っている。面白いことに、5階には展望温泉があり、日本で唯一の"温泉のある百貨店"である。そして丸光に隣接してファッションビル「スワプラザ」がある。専門店が50店舗入った商業ビルは、諏訪レイクシティでは唯一である。しかしこちらも、店内はなかなかレトロっぽい雰囲気を持っいる。このビル、隣接してビジネスゾーンを有しており、長野放送・長野朝日放送などのオフィスや駅前市民会館も入居するなど公共性も兼ね備えた画期的な複合ビルとなっている。この丸光・スワプラザを挟んで国道20号線沿いには、約40店舗から成るアーケードを持った"駅前商店街"が形成されている。このように街としての顔はあるものの、20万都市の中心地としては、かなり寂しく、魅力に欠けると言えるだろう。
 しかしこの事は、逆に捕らえれば、新都市の商業基盤整備が、やり易いとも言えるのではないだろうか。道路整備の遅れによる郊外店の未発達もあり、計画的な都市ビジョン作成が多いに出来るのである。
 現在の商業地は、岡谷駅前→上・上諏訪駅前(諏訪市)→中、茅野駅前→下であるが、合併後の商業基盤も、3極化のままで行くのか?1〜2極化へ絞るのか?あるいは、新中心商業地を造るのか?。いろんな構想・判断が出来るのは魅力とも言える。勿論、この問題でも地域間感情はあるだろうが、経済活動が活発化するきっかけをつくることは間違いない。
 例えば、JR中央東線の下諏訪駅-上諏訪駅間を連続立体高架化し、上諏訪駅を諏訪中央駅に改名することも考えられる。駅も高架化されることで、駅前広場が拡張できるほか、高架下を商業施設・バスターミナル・タクシー乗り場・駐車場などに活用することも出来るだろう。老朽化してきた丸光百貨店の建て替えなどで、商業地の近代化も検討できる。駅裏側に整備されるだろう国道20号線のバイバスも、JR中央東線が高架化されれば、商業地へのアクセスが容易であり、広域商業地としての可能性も高まる。更に(新)諏訪市の市役所を、諏訪中央駅の隣接地にシンボルチックに建設できれば都市としての起爆剤となろう。諏訪湖周辺には日本一の間欠泉もあるなど、全国へ向けてのイメージ作りも見えてくる。いままで"ごちゃごちゃ"した感じだった、上諏訪駅周辺を、新都市のシンボルエリアにすることも可能ではないだろうか。
 また、中央リニア新幹線構想では、(新)諏訪市の南側をかすめて行く。合併して20万都市となれば、確実にリニア新幹線駅が設置されるだろう。中央リニア新幹線構想自体が進展していない為、ルートなどがはっきりしてはいないが、下諏訪駅への乗り入れは難しいと考えられる。しかし、現在の茅野駅あたりにリニア新幹線駅が出来るのであれば、(新)諏訪市は、更に魅力的な都市になるだろう。何故なら、茅野駅が長野・松本・白馬方面からの乗り換え駅となるため、連絡特急の充実など在来線の役割も増して来る。そうすれば、岡谷-下諏訪-諏訪-茅野間の鉄道が大きく発展する可能性があるからだ。つまり(新)諏訪市は、地域内交通も充実し、広域交通の中継都市としての役割をも担うこととなるからだ。
 そして岡谷地区であるが、中央自動車道と長野自動車道のジャンクションに、高山方面の中部縦貫自動車道のジャンクション接続誘致を目指し、クロスジャンクション化による流通ターミナル都市を目指してはどうだろうか。この地域がますます面白くなるのは間違いない。
 合併都市が出来るのであれば、コミュニティ情報源を充実させる必要があるだろう。情報源としての多メディア化と言えば、新聞・テレビ・ラジオである。実は、この諏訪レイクシティでは、これまでも、コミュニティメディアは存在している。
 新聞では、岡谷市民新聞社があり「信州・市民新聞グループ」の総称で、岡谷・下諏訪・諏訪・茅野・辰野・箕輪・南箕輪の各エリアごとに日刊のコミュニティ新聞を発刊しているのである。発刊から50年の歴史を持ち、タブロイド版で16〜32ページの情報発信能力がある。
 またテレビメディアも、諏訪地域には既に存在する。実は日本で最も早く都市型のケーブルテレビ局が出来たのが、諏訪地域であり、既に20年以上の歴史を持っている。地域情報を提供するコミュニティチャンネルをいち早く導入し、全国に拡がったケーブルテレビ局のモデルとして今も注目されている。そのケーブルテレビの名称が「LCVネットワーク」。このLCは、レイクシティの略である。
 しかし、残されたコミュニティ情報源としてのラジオメディアだけが、諏訪地域には存在しない。全国的に増加したコミュニティラジオであるが、地方都市の情報源として貴重であり、災害時での役割も大きい。そして何と言っても、アウトドア(場所にとらわれない)としての情報源として重要であり、ラジオメディアは見直されつつある。
 コミュニティラジオを、新都市誕生のシンボルチックメディアしてはどうだろうか。
 諏訪レイクシティが、全国へ通用する都市になれるかどうか、それは、(新)諏訪市が誕生するかどうかに掛かっている。合併すれば、魅力的な都市になる可能性が出てくるが、合併しなければ、このままジリ貧の中、一地方の小都市群として衰退していくでだろう。
 自分達の住む将来像は、自分達で描き、そして決める。それは"前向き"であって欲しい。それぞれの地域感情が、同じ地域感情になるときこそ、この諏訪レイクシティは、新しい時代を迎えるのです。そして、諏訪レイクシティの可能性は、全国の同じような合併問題を抱える地域のモデルケースとなるでしょう。特に、(新)諏訪市が誕生するのであれば、同じように大同団結都市の実現が必要な"富山高岡広域都市圏"にとっては、刺激的で追い風となることを期待したいものです。
 「あなたのふるさとはどちらですか?」と聞かれ、明確に答えられるようになるかどうか。その答えは、まもなくわかることとなる。
2003.10.20作成
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